東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)125号 判決
(争いのない事実)
一 原告請求原因一から三に記載された、本件実用新案に対する無効審判の手続経過、本件実用新案の要旨および本件審決の内容に関する事実は被告も認めるところである。
(本件実用新案の技術内容)
二 本件実用新案の技術内容として、その登録請求の範囲に記載されたところによれば、本件実用新案の構成は輸送体およびその縁の二つの部分からなつており、それぞれの構成部分については、
(一) 輸送体は二つの種類の緯線条をもつて組み合わされており、その一つは螺旋状緯線条であり、他は連綴用緯線条であるが、前者は節距が大きく、全体をやや扁平とした形状のものであるが、さらに左ひねりのものと右ひねりのものとの二様のものからなり、これを交互に前後方向に横列状態に配列したうえ、後者をもつて挿通連綴して輸送体を構成しており(後者については直線状またはクリンプ状のものである。)、
(二) 縁は、この輸送体の上向きに屈曲した側辺部によつて構成されるものであるが、前記二つの緯線条のうち連綴用緯線条についてはその屈曲側辺部において一本おきあるいは数本おきに、その先端部を短かくすることによつて螺旋状緯線条の先端部分に遊び部を形成するようにしてある、という内容を有するものである。
そして、その成立に争いのない甲第一号証(実用新案公報)の記載によつてみると、本件実用新案は金網製コンベヤ、ベルトにおいて、側辺部において縁を形成するに当つて、その緯線条の一つである連綴用緯線条のうちにその先端部を短かくして遊び部を設けるという方法を採用することによつて、縁における螺旋状緯線条の先端部の一定区間に前後進退自由の融通性を与え、これによつて輸送体がコンベヤ・ベルトとして用いられるとき、転子にかかつたときにもその円弧に従い、扇骨状に外開き状態となり、水平状態に戻つたときには、もとの状態に復帰するという縁部分の運動が無理なく行われるから、人絹その他の繊維工業用精練機に用いられるベルト・コンベヤその他の輸送帯として、好適なものであることが認められる。
しかしながら、右の証拠の記載によつてみるも、原告主張の、輸送体の構成において、四本の螺旋状緯線条に一本の連綴用緯線条が、そして一本の螺旋状緯線条には四本の連綴用緯線条がそれぞれ挿通されているという関係は、その第四図に示されているだけであつて、その他の記載を綜合しても、このような組織の輸送体を包含することは当然としても、本件の実用新案がこれに限定されているものと解さなければならない根拠は見当らないし、また、原告の主張する、この組織によつてはじめて何らの補助手段をも必要としない金網製コンベヤ・ベルトを得ることができたとの点についても、とくにこの点をねらいとした考案であると見るべき記載がないばかりか、補助手段についてはまつたく触れていないのであるから、補助手段を用いないこともあろうが、本件実用新案の出願当時において、考えられた補助手段を用いることも包含されているものとみてもよいから、このことから輸送体の組織が原告主張のような限定されたものと解すべき根拠もないし、ほかに、この認定を覆すに足りる資料は見当らない。
なお、原告は、実用新案の登録請求の範囲に記載された構成は、完成されたものでなければならないことを理由として、本件実用新案が特定の具体的構造に限られる旨を主張するところがあるが、実用新案は「実用アル新規ノ型ノ工業的考案」でなければならないから、実用に供されるべきこと、工業的に利用しうべきことは要請されているとはいえ、登録請求の範囲に記載されたところにも工業的実用品として完成されるためには、いくつかの技術手段を包含することはありうるところであり、そして本件実用新案においても、その技術内容は右原告主張のような特定の具体的構造に限定されていないこと前に認定した通りであり、原告の主張は本件の具体的事案については妥当するものとはいえないから採用できない。
(引用例の技術内容)
三 そこで、本件審決において挙げられた引用例について検討する。先ず第一引用例(前記カタログ九十四頁に記載された部分)についてみるに、その成立に争いのない乙第三号証の四、同号証の八および同号証の十一の各記載によれば、右引用例には、コンベヤベルトに関し搬送物を保持するための縁についての記載があり、とくにその下段に示す、フリー・フレツクス保護縁に関しては、次のような説明が記載されている。
『「つば」(フランジ)を付した、ロツドで結合されたベルトを用いることによつて、さらに進んだ、保持のための縁の構造にとつての可能性がもたらされた。ロツドで結合されたベルトの織物のそれぞれは、つばを設ける新しい方法を可能ならしめている。そのうちでも「フリー・フレツクス」保護縁は、畝織の組織をもつベルトにとつて好ましい型のものである。この構造においてはベルトの両辺は立上つて「つば」を形成する。一連の連綴棒(ロツド・コネクター)のうちのあるものはベルトの屈撓性を増大するため「つば」の底部で切られている。………』。すなわちここにはすでに、畝織りの組織をもつ輸送体とその両端において立上つているフランジ部とフランジの底部で切られている連綴棒とがその特徴のうちに挙げられているコンベヤー・ベルトについての記載がせられているのである。
しかも畝織りの組織についてはとくに説明は加えられていないけれども、その成立に争いのない乙第三号証の十(前記カタログの第四十頁の記載)によれば、その図示するところおよび説明から明らかなように、この畝織の組織は、右ひねりおよび左ひねりの螺旋線条を交互に組合わせ、一本の螺旋線条には四本の連綴棒が挿入され、螺旋線条をこの連綴棒で連綴しているものであつて、これによつて網目の密な組織を形成しているものであることが認められるので、この資料を参考にすれば、前記第一引用例にいう畝織りの組織は右のような組織のものであると認定することができる。(第一引用例の下段に示されたものと右乙第三号証の十に示されたものとの組織上の関連性については原告もこれを争わないところである)。
そうとすれば、本件実用新案のものと、右第一引用例の下段に記載のものとはともに(イ)ベルト基体はいずれも畝織りの組織のものであり、本件実用新案の構成(A)(ロ)いずれも連綴輸送体の側辺部を上向きに屈曲して縁(フランジ)を設け、縁中の連綴棒のあるものはベルトの屈撓性を増大するため縁の上部に達しないように短かくせられているものであつて、(ハ)右の構成によつて螺旋状緯線条の一部のものにその縁部において遊び部を設けたもの(以上構成B)からなる金網製コンベヤー・ベルト(構成C)であつて、この意味において両者はその軌を一にするものというべきである。もつとも、第一引用例のものにおける連綴棒の先端がフランジの底部で切られているとの表現からすれば、引用例のものにおいては、連綴棒の短かくした端部は、フランジ(縁)の部分に達せずフランジの底の部分で終つているものであつて、その点本件実用新案のものの連綴棒の短かくした端部が縁の部分の途中にまで及んでいることに比べれば、そこに両者間に差異があることが認められる。しかしこの差異から両者間に如何なる作用効果上の差異があるものか、本件実用新案の説明書の記載からもこれを窺うに由がないところであり、結局右差異から両者間にその作用効果において格別の差異が生ずるものとも認め得ないところであつて、右の相違点に考案の存在を認めることはできず、これは単に設計上の微差にすぎないものと認めざるを得ない。
(無効事由の存否)
四 以上の認定したところによれば、本件実用新案の技術内容として示されているところは、すでにその出願前国内に頒布された文献(このことは当事者間に争いがない。)である第一引用例のうちに、すでに容易に実施することができる程度においてこれと同一のものまたは少くとも類似のものが示されているといわなければならないから、その他の引用例について検討するまでもなく第一引用例を挙げて本件実用新案を無効とした本件審決は正当であるといわなければならない。
(むすび)
五 よつて、原告の請求は理由がないので、これを棄却することとする。